百日紅

梅雨が明けた7月の夜、あなたを見送る道の途中で私は、

「百日紅がきれいだね。」

と問いかける。

「そうだね。」

とあなたは明るさを最大にした液晶を見ていた。

 

そして9月の朝、7月に見た百日紅がまだまだ健気に咲いているのに気付く。

すると心地よい風が吹き、百日紅は一輪だけ空に舞う。

まるで秋が来るのが怖いみたいで、

「私と一緒ね。」

と苦笑いをする。

 

冷たい風が吹く10月の真夜中、誰もいない道でひとり、散りゆく百日紅を眺めていると、

「きれいだったでしょ?」

と問いかけられる。

「そうだね。」

と私は優しく微笑み返すのであった。